
ソーシャルワーカーって何?どんな仕事?
福祉の仕事に関心を持ったとき、耳にするのが「ソーシャルワーカー」という言葉ではないでしょうか。
けれど、実際にどんな仕事なのか、どんな人たちなのか、あまり知られていません。
私なりにひとことで言えば、
「何らかの生活課題について支援する仕事」です。
とはいえ、これで全てを語れたわけでは全くありません。
「ソーシャルワーカーとは何か?」という問いに、端的に答えるのはとても難しい…。
これは、哲学的な問いでもあるからです。
この記事は、私の視点と、宮本節子氏の著書『ソーシャルワーカーという仕事』を参考に織り交ぜて、できるだけわかりやすくお伝えする試みです。
「ソーシャルワーカーとは?」に、ひとつの正解はない

実際のところ、「ソーシャルワーカーとは何か?」という質問に対して、明快に答えることは非常に難しいです。
理由はいくつかあります。
たとえば――
- 職場の違い
- クライエントの違い
- 役割認識の違い
- 社会からの期待の違い
- 支援の手法の違い
- 個人差
違いがありすぎて、共通項を洗い出しにくい。
言葉で説明するには、私の手に余ります。
たとえば、ネット上のとあるサイトには、次のような一文があります。
ソーシャルワーカーとは、さまざまな困りごとを抱える人の相談に応じ、必要な支援につなげる専門職です。
この説明は、とても端的で、そして間違っていません。
ただ、「端的な一文」を切り取ると、どうしても説明しきれない部分が出てきます。
「必要な支援につなげる」という言葉の裏側には、つなげても終わらない現場の現実があります。
ソーシャルワーカーは単なる紹介屋ではありません。
ときに自らが支援の担い手になり、
ときに望まれない支援に踏み込むこともあります。
たとえば児童相談所の児童福祉司のように、本人や家族の同意がなくても、子どもの安全のために介入せざるを得ないこともあります。
つまり、例外を挙げようと思えばいくらでも挙げられる。
それほどに、ソーシャルワーカーの仕事は広く、複雑で、人間的だと申し上げたい。
だから私自身、「ソーシャルワーカーってどんな仕事ですか?」と聞かれると、正直ちょっと気が重くなる。
面倒だし、誤解されやすいし、伝わりにくい。
ずるいけど「あなたはどう思います?」と聞き返したくなることもあります。
だから、私的に正しく表現するなら
ソーシャルワーカーとは、さまざまな困りごとを抱える人の相談に応じ、必要な支援につなげること”も”する専門職です。
締まりのない表現になってしまいましたが、
常に余白があり、ほかの可能性も排除しきれない。
共通して言えることは、「何らかの生活課題について支援する仕事」であり、
何らかの必要性に基づき、解消に向けて支援するということです。
(しかしこの説明にも突っ込みどころや例外はあります)
時代とともに変わる「ソーシャルワーカー」
ソーシャルワーカーの仕事の定義は、固定的に捉えてほしくないと思っています。
時代の変化や社会構造の変化によって、役割も期待も変わっていく。
言葉の定義とは、使う人たちによって形を変えるものです。
社会福祉士・精神保健福祉士という資格も、その例外ではありません。
たとえば「精神保健福祉士」は、かつて PSW(Psychiatric Social Worker) と呼ばれていました。
いまは MHSW(Mental Health Social Worker)。
支援対象が広がり、役割も時代に合わせて拡張してきたのです。
医療や心理カウンセリングとの違い
医療や心理カウンセリングの対象は、主に「その人自身」です。
いっぽう、ソーシャルワーカーが対象にするのは、
その人+その人を取り巻く環境(家族・職場・医療機関・福祉サービス・制度・地域など)です。
たとえば
- 自宅を訪問する
- 通院に同行する
- 主治医の説明を一緒に聞く
- 役場や年金事務所に同行する
- 手続きを一緒に行う
- 家を片づけたり、買い物を手伝ったりする
まるで“なんでも屋”のように見えるかもしれませんが、
特色は「環境に働きかけること」にあります。
なぜ「環境」に関わるのか

例を挙げてみます。
あなたは共働きで、毎日仕事を頑張っていました。
ところがある日、通勤途中の事故で脳に障害を受け、思うように体が動かなくなりました。
高次脳機能障害と診断され、リハビリの毎日。
ふらつきや倦怠感もあり、仕事に復帰する目途も立ちません。
このとき、何が問題になるでしょうか?
まず「働けない・収入がない」という現実。
努力ではどうにもならない問題です。
そこで必要なのが、環境を変える視点です。
- 傷病手当金や失業保険の申請
- 会社への配慮依頼
- 障害者雇用への転職
- 障害年金や福祉サービスの利用
- 配偶者がフルタイム勤務に切り替える
- 実家の支援を得る
- 保育園への預け入れ
――正解は一つではありません。
このとき、
人生の選択肢を整理し、どの道を進むかを一緒に考える人。
これ”も”ソーシャルワーカーです。
ソーシャルワーカーはどこにいる?
ソーシャルワーカーと呼ばれる人は、どこにいるのか。
例えば、
- 市区町村役所の福祉相談窓口(生活保護課、障害福祉課・高齢福祉課など)
- 社会福祉協議会
- 病院や診療所の地域連携室
- 福祉施設(高齢・障害・児童など)
- 児童相談所
- 相談支援事業所 など
生活に困難を抱えた人が相談できるよう、地域のさまざまな場所に配置されています。
(とはいえ、残念ながら配置されていない地域もあります。)
ソーシャルワーカーの呼び方はいろいろある
実は、現場では「ソーシャルワーカー」と呼ばれることはほとんどありません。
代わりに、次のように呼ばれることが多いです
- ケースワーカー、ワーカー
- MSW(メディカルソーシャルワーカー)、エムエス
- PSW/MHSW(精神保健福祉士)、ピーエス
普通に「職員さん」「スタッフさん」と呼ばれたり、
児童の現場であれば「先生」と呼ばれることもあるでしょう。
医者や看護師のように呼称が統一されていないため、仕事のイメージが伝わりにくいのが実情です。
ソーシャルワーカーになるには
ソーシャルワーカーの多くは、大学・短大・専門学校などで福祉を学んだ人たちです。
かつては「現場で鍛えればよい」という時代もありましたが、いまは専門性が重視されています。
国家資格
- 社会福祉士
- 精神保健福祉士
私はこの2つの資格を持っていますが、
資格がなくてもその現場で相談支援を担えば、実質的にソーシャルワーカーと呼ばれる仕事をすることになります。
(ただし社会福祉士・精神保健福祉士は「名称独占資格」です。)
相談したら何を聞かれる?
いざわが身のことを誰かに相談しようとしても、
「批判されるのではないか」
「何を聞かれるのか不安」
そんな風に感じるのではないでしょうか。
でも、ソーシャルワーカーは、とにもかくにも“話を聴くこと”を大切にする専門職です。
思いを聴き、整理し、次の一歩を一緒に探します。
(そうでないソーシャルワーカーがいたら、それは“ヤブ”です!)
ソーシャルワーカーは、こんな視点で話を聴きます。
- あなたはこれまでどう生きてきたのか
- これからどう生きたいのか
- どんな制度や社会資源を使えるのか
- 得意なこと・苦手なことは何か
- 何を優先し、どう行動していくか
とてもプライベートな話に及ぶため、守秘義務が課せられています。
(特に社会福祉士・精神保健福祉士は倫理綱領で義務づけられています。)
医者は病気をみる。
ソーシャルワーカーは人生をみる。
人生の舵取りに正解はありません。
あなたがどんな方向へ進みたいか
――その舵取りをともに考え、支えることも、ソーシャルワーカーの仕事です。
宮本節子氏:『ソーシャルワーカーという仕事』
ソーシャルワーカーの仕事をもっと知りたい方へ――
この記事では、ソーシャルワーカーについて説明を試みましたが、まだまだ十分だとは思いません。
そこで役立つのが、宮本節子氏の著書『ソーシャルワーカーという仕事』。
この仕事の基本をやさしく、かつ誠実に伝える一冊です。
「人の人生に関与する仕事」という言葉の重みを、具体的な事例を通して感じられます。
これからソーシャルワーカーを目指す人、現場で迷いながら歩む若手の方にもおすすめできます。
おわりに
ソーシャルワーカーとは何か――。
これは、哲学的な問いでもあります。
それでも、「何らかの生活課題について支援する仕事」という本質は変わらない。
そう思います。
もし生活がどうにもならないとき、
ソーシャルワーカーという存在があります。
そして、あなたもその一人になってくれたなら、私は嬉しいです。



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