あなたは精神科病院に入院したことがありますか?もしくは、身近な人が入院したことがありますか?
精神科病院に入院するということは、どんなことでしょうか?
「怖い」「つらそう」というイメージがあるかもしれません。でも、それだけではありません。
実は、精神科病院に入院すると、退院できなくなる可能性があるのです。

私は10年以上、精神保健福祉士・社会福祉士として様々な現場で働いてきました。
今回は、精神科病院に40年も入院した男性の話を紹介します。
そして、そのような長期入院がなぜ起こるのか、私たちができることは何かを考えてみたいと思います。
【実は怖い!】精神科入院40年は誰にでも起こるリアル|PSW解説
40年入院した男性の話
「私の人生、40年間 空白なんです」
これは、精神科病院に40年も入院した男性の言葉です。男性は69歳です。
男性は29歳のときに初めて精神科病院に入院しました。その後、何度も転院を繰り返しましたが、一度も退院できませんでした。
男性は退院したかったので、真面目に働いたり勉強したりしました。でも、医師からは「まだダメだ」と言われ続けました。
男性は自分の人生を奪われたと感じました。彼女も結婚も子どももできませんでした。時間は戻りません。
そして、男性は訴訟を起こしました。長期入院について、国の責任を問う日本初の訴訟です。
男性の40年の体験と訴訟にいたる話
男性の40年の体験と訴訟にいたる話は、こちらのマンガでまとめられています。
このマンガを読んで、どう思いますか?
私はとても悲しくなりました。
男性は、精神科病院に入院したことで、自分の人生を自由に選択できなくなりました。
人権を侵害され、40年もの長期入院となりました。
これは、誰の身にも起こりうることです。どのような方でも、精神疾患は発症しうる病気だからです。
私たちは、精神疾患に対する偏見や差別をなくし、理解を深め、長期入院への対策を講じる必要があります。
長期入院の原因
では、なぜ退院できなくなるのでしょうか?
まず、精神科病院には、5つの入院形態があります。
精神科の入院形態
- 措置入院
- 緊急措置入院
- 医療保護入院
- 応急入院
- 任意入院
このうち、自らの意思で退院できるのは任意入院だけです。任意入院は、自ら希望して入院することです。
その他、退院できるかどうかは、主に精神保健指定医という医師が決めます。
精神保健指定医は、精神科病院において精神障害者の診断や治療を行う医師です。
≫参考:厚生労働省 精神保健指定医とは
精神保健指定医は、患者さんの症状や生活状況を考慮して、退院できるかどうかを判断します。
しかし、その判断には、必ずしも明確な基準がありません。
精神保健指定医の主観や判断基準によって、退院できたりできなかったりすることがあります。
例えば、刑務所ならば刑期が決められていますよね。
刑期は裁判で罪の重さ等によって決められることになります。窃盗罪ならば「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と刑法で基準もしめされています。
しかし、精神疾患による入院では、いつ退院できるかわからないのが普通なのです。
つまり、「いつ、どうなったら退院できるのか?」の答えは、精神保健指定医のさじ加減で変わります。
厚生労働省によると、日本の精神病床の平均在院日数は285日(2014年時点)です。
精神科病院に入院したら、退院まで平均9か月かかるのです。
では、どうして40年もの長期入院が起きるのでしょう?病気の治療が長引いたからでしょうか?
答えは違います。退院するためには、病気が治っただけでは不十分となりやすいからです。
退院後の生活を支える家族や友人、住まいや仕事、医療や福祉などのサービスが必要です。しかし、これらのサポートが不足している場合や、利用する方法がわからない場合もあります。
その結果、退院できないまま長期入院になってしまうことがあります。
(社会的入院と言います)
長期入院は、患者さんにとっても社会にとっても大きな問題です。
患者さんは、自分の人生を自由に選択できませんし、人権として問題です。また、長期入院は、医療費の増加にもつながります。
こういった社会で、私たちは安心して暮らせるのか?という問題もあります。
最近では、認知症の方が精神科病院に入院していることが増えてきました。
私たちが高齢になって認知症になり、精神科病院に入院したら、もう退院できなくなるかもしれません・・・。
私たちができること
私は男性の訴訟の動向を注視していきます。
クラウドファンディングもできます。わずかながら、私も応援させてもらいました。
社会福祉士や精神保健福祉士の究極的な目標は、人権と社会正義の確立。
おおきな目標で気が遠くなりそうですが、誰かの人生がないがしろにされている現状を知ることは、確かな一歩になります。
さいごに、訴状の「はじめに」から引用させていただきます。
被告国は、精神障害のある人に対して、危険な存在として隔離収容政策を実施し、日本社会における偏見を作り出した。
世界各国が隔離収容政策は人権侵害であって誤りであると認めて、地域生活・地域医療へと転換を図っていくなか、被告国は過去の政策の過ちを認めることをせず、入院の長期化を現実的に抑止しようとせず、かつ、長期入院となった者に対して十分な救済措置を講じることもなく、これを漫然と放置してきた。
原告は、そのような被告国の政策によって、約40年もの間、様々な自由が制限される入院生活を強いられ、我々が当たり前のように享受してきた地域で暮らす機会そのものを奪われたものである。
原告は、これ以上自分のような人が生み出されてはいけない、また、自分と同じように長期入院となり退院できない人たちが退院できるようになって欲しいという思いで、被告国の政策の違法性を改めて問うために、本訴に至るものである。
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