
一時保護委託ってなに?一時保護と違うの?
今回は「児童相談所の一時保護委託」について解説します。
まず前提として、一時保護とは行政処分です。
つまり、「児童相談所が一時保護の必要がある」と判断したとき、法的な根拠に基づいて子どもを一時的に保護することを指します。詳しくはこちら。
通常、一時保護は児童相談所の一時保護所で行います。
一時保護所は、その児童相談所に併設されている場合もあれば、少し離れた場所に設置されている場合もあります。
都道府県によっては、複数の児童相談所で一つの保護所を共有していることもあります。
では、「一時保護委託」とは何でしょうか?
結論を先にまとめると、以下のようになります。
まとめ
- 一時保護委託とは:児童相談所が他の機関に子どもの保護を任せること
- 委託先:児童養護施設、乳児院、病院、障害児入所施設など
- 理由:一時保護所の満員、年齢・障害特性への配慮、安全確保など
- 違い:「一時保護」と基本的に制度上の違いはなく、期間や扱いは同じ
では詳しく解説していきます。
一時保護委託とは?

一時保護委託とは、児童相談所が一時保護を行う際、子どもを他の施設や家庭に“お願いして預かってもらう”形のことです。
「委託」とは、簡単に言えば「任せる」ということ。
児童相談所が保護の責任を持ちながら、実際の生活の場を他の機関にお願いする形です。
一時保護委託先として多い場所
委託先として多いのは、以下のような機関です。
- 児童養護施設
- 児童心理治療施設
- 障害児入所施設
- 乳児院
- 里親家庭
- 自立援助ホーム
- 病院
これらの施設や人が、子どもの年齢や状況に合わせて「一時的な生活の場」として受け入れます。
なぜ一時保護委託を行うのか?
理由はいくつかあります。ここが現場ではとても重要なポイントです。
以下がすべてではありませんが、例示してみます。
一時保護所がいっぱいのとき
経験上、最も多い理由です。
児童相談所の一時保護所は、定員が決まっています。
しかし、「満員だから保護できません」なんてことはありません。
児童相談所は、子どもを守る必要があると判断すれば、満員でも必ず保護します。
その際に使われるのが「一時保護委託」です。
つまり、一時保護所がいっぱいでも、他の施設に委託してでも子どもを守る。
それが児童相談所の責任です。
「もう保護できません」「ノルマ達成しました」なんていう発想はありません。
そんなことを言われたら、馬鹿にしないでって思っちゃいますね…。
詳しくはこちらで解説👇
子どもの年齢・障害特性などに合わせるため
これは専門性の観点からの理由です。
たとえば乳児や新生児は、ミルク・おむつ替え・寝かしつけなど、細やかなケアが必要です。
そうした支援には、乳児院が適しています。
また、医療的なケアが必要な子どもの場合は、病院への委託が多い。
自傷・他害などの強度行動障害などがあり、特別の配慮がいる場合は、障害児入所施設が選ばれやすい。
一時保護所は多くの場合、2歳〜18歳くらいの子どもを中心に想定しています。
歩ける・話せる・自分で食事やトイレができる。
そうした子どもを想定して運営されているため、乳児や医療的ケア児には環境が合わないこともあるのです。
安全・プライバシーの確保のため
これも時にある理由です。
たとえば、A中学校の女の子が保護されているときに、同じ学校の男の子も保護することになったら…。
お互いに顔見知りの可能性があります。
一時保護されていること自体は、とてもデリケートな情報です。
そのため、別の施設に委託して、互いに顔を合わせないようにすることもあります。
また、保護者が保護先を特定してしまうリスクがある場合は、安全確保のために場所を移すこともあります。
虐待が理由で一時保護していて、同意もされていないケースでは、保護者に一時保護先を伝えない対応が一般的です。
そしてもう一つ、子ども同士の安全や相性を考慮して行う委託もあります。
すでに一時保護されている子どもが不安定な状態にある場合に、
そこへ新たに別の課題をもつ子を入れると、安全を保てないことがあります。
そのようなときは、お互いが安心して過ごせるよう別の場所に委託するという判断が取られます。
一時保護委託を行うとどうなる?(現場のリアル)

ここからは、児童相談所で実際に一時保護委託を行ってきた立場としての話です。
正直に言うと、めちゃくちゃ忙しくなります。
詳しくはこちらの記事でも。
一時保護を委託するということは、つまり「お願いする」こと。
そのため、児童相談所は以下のような作業を行わなければなりません。
- 子どもの情報や支援方針をまとめた書類を作成
- 委託先への説明や打ち合わせ
- 荷物や必要物品の引き渡し
- 定期的な報告・確認・面会対応
同じ建物の中にいるわけではないので、連携にタイムラグも生じます。
たとえば、私の経験では片道2時間の施設に委託したケースもありました。
子どもに会うためだけで、半日仕事です。
Zoomで面談することもありましたが、やはり距離があるぶん、気持ちのつながり方にも影響が出やすいと感じます。
一方で、委託先の職員さんとの協力によって、子どもが落ち着いて過ごせたケースも多くあります。
つまり、委託は大変だけど、子どもにとって必要な選択であることが多いのです。
一時保護と一時保護委託の違い
結論として、制度上の違いはほとんどありません。
- 期間
- 一時保護の解除手続き
- 保護者への通知
これらはすべて、通常の一時保護と同じです。
違いがあるのは「場所」と「距離」だけ。
保護者の立場から見ても、対応が大きく変わることはありません。
ただし、面会場所が児童相談所ではなく委託先になる場合はあります。
厚生労働省の見解と、現場のリアル
もっと詳しく知りたい方は、
👉 厚生労働省「子ども虐待対応の手引き」第5章 一時保護(12. 委託一時保護の留意点)
も参考になります。
手引きで書かれている内容と、私が解説した現場の実情には少し差があります。
でもそれは、地域性やケースの多様さ、現場のリアルが反映されている結果だと思ってくださいませ。
まとめ
- 一時保護委託とは:児童相談所が他の機関に子どもの保護を任せること
- 委託先:児童養護施設、乳児院、病院、障害児入所施設など
- 理由:一時保護所の満員、年齢・障害特性への配慮、安全確保など
- 違い:「一時保護」と基本的に制度上の違いはなく、期間や扱いは同じ
委託は、児童相談所にとっても手間がかかる対応です。
それでも行うのは、「子どもの安全を最優先にするため」です。
もし保護者の方がこの記事を読んでいるなら、「なぜ委託なのか」を少しでも理解してもらい、安心いただけると嬉しいです。
関連記事 制度だけでは見えない“一時保護の現実”を紹介
一時保護の現場で見えてくるリアルを、こちらの記事でもまとめています。







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