
児童相談所にはノルマがあるの?一時保護は予算のためにするの?
こうした疑問のある人へ。

こんにちは。私は児童相談所で働いていたことがあります。児童福祉司として、虐待されている子どもを一時保護することもありました。
「児童相談所にはノルマがある」
インターネットでは、こんなことを言っている人がいます。
実際に、Yahoo!知恵袋でこんな質問がありました。
児童相談所の拉致について。最近知りました。そして、児童相談所の予算(ノルマ達成)のため、親が病弱だったり、押しに弱かったり、片親だったりすると春休みや夏休みに子供が拉致される事が多い、と。
出典:Yahoo!知恵袋
私は経験から断言できます。ノルマはありません。
国や児童相談所が決めたルールにも、「一年間に一時保護しなければならない数は〇〇件」とかそんなことは書いてありません。(もしあったら大変なことです)
でも、嘘や偏った報道を信じてしまった人が、
「自分の子どもも拉致されるかもしれない・・・」と不安になってしまう人がいます。
これでは子どもが安心して暮らせるようになりません。
児童相談所の本当の仕事を知ってもらうために、私の経験をもとにこの記事を書きました。
児童相談所はノルマがあるから一時保護するの?【児相経験者解説】
一時保護するかどうかは、予算やノルマとは関係ない
一時保護するかどうかは、予算やノルマとは関係ありません。
一時保護するかどうかの基準は、厚生労働省が発表しています。誰でも見ることができます。
この図にあるように、YES・NOで判断していきます。
予算やノルマの話はどこにもありませんね。
子どもや親が一時保護を希望しているかどうか、危険があるかどうか等を調査して判断していきます。
児童相談所に「ノルマ達成のために一時保護しよう」と言ってる時間はない
「一時保護したら終わり」ではありません。一時保護したら膨大な業務のスタートです。
例えば、一時保護を担当する児童福祉司(ケースワーカー)からみた一時保護という職務は、次のようなものです。
一時保護という職務 | |
業務量 | とても多い |
業務の性質 | 難度が高い 責任大きい 心理的負荷大きい |
優先順位 | 高い |
簡単に言えば、忙しくて大変で辛い仕事です。でも子どもの安全のためにはやらなければなりません。
一時保護の業務は心身ともに疲れやすく、体調を崩したり精神的につらくなったりする人も多いです。児童福祉司の休職率や病気率が高いのは、そういう理由です。
こんな状況で、「ノルマがあるから一時保護しなさい」なんて言われたら、現場の児童福祉司は怒ってしまいますね。「ふざけんじゃねぇ」です。
一時保護は大変だけど、児童相談所として『子どもを救うために正しい判断だ』と思えるから、腹をくくって決行できるのです。
もし「ノルマがあるから一時保護しないといけない」などと言う人がいたら、懲戒処分されたり、録音して内部告発する人が出たりすると思います。
児童相談所の現場では、「ノルマがあるから一時保護しよう」なんて悠長なことを言っている余裕はありません。
「ノルマ・予算」都合の一時保護なら大問題になる

そうは言うけど、本当はノルマがあるんじゃないの?
「公開されている一時保護する基準なんて、ただの建前でしょ?」と思ってしまう人もいるかもしれません。
一時保護は児童相談所長か都道府県知事が決めることですが、他の人が正しいかどうかチェックできるようになっています。
子どもを一時保護されても事実無根であるならば、「審査請求」や「不服申立て」をすることができます。
なぜなら、一時保護は行政処分だからです。行政処分には行政不服審査法が適用されますから、法に則って対処できます。
不服申立てがあれば、当然、児童相談所は説明しなければなりません。
なぜ一時保護したのか?と。
その理由に「予算やノルマだから」と言えるでしょうか?
児相から「ノルマだから」と言われたら、大問題です。児童相談所長は免職等に処されるでしょう。
子どもの安心と安全。これ以外に、一時保護する理由はありません。
最後に
児童福祉司にとって、一時保護は仕事量が増えることですし、責任も重く、大変です。
でも一時保護しなければ危険だとわかれば、児童相談所として決断します。それしか考えていません。
一時保護するかどうかは、急ぎで決めなければならないことが多いです。
「ノルマだから」とか
「予算だから」とか
などと考えているヒマも余裕もありませんし、そのような悠長なことを言っていられるものではありません。児童相談所の現場はもっと緊迫感があるものです。
一時保護についてはこちらの記事でも説明しています。
なお、これからは一時保護する必要があるかどうか、裁判所がチェックする制度が始まります。
NHKが「児童福祉法など改正法が成立「一時保護」の際「司法審査」導入(2022年6月8日)」で記事にしています。
こんなことも考えられています。
≫厚生労働省HP 一時保護開始時の司法審査等について(案)( PDF)
子どもが安心して暮らせるように、親も安心して子育てできる社会になってほしいです。この記事がその一助となれば幸いです。
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