とてもユニークかつ、児童相談所のケースワーカーのリアルな業務や視点、立場、葛藤をとらえた本に出会いました。
「プーさんを児童虐待で保護すべきか?-ソーシャルワーカーの想像力と文学性」という著書です。
本書は、ディズニーのキャラクター「くまのプーさん」を5歳児童に見立て、一時保護すべきか否かと分析が展開されていく内容です。
「ふざけてるの!?」と思うかもしれません。確かに、ユニークで滑稽な部分もあります。
しかし本書は、ケースはソーシャルワーカーの記述・説明による物語であり、ソーシャルワーカーの想像力と文学的能力に依るところが大きいという、とても鋭い視点による真面目な本です。
記述・説明のいかんによって、ケースという物語はいくつも成り立つ。つまり、一時保護すべきか否かの判断すら変わるということです。
ところで、プーさんをよくご存知でない方もいると思います。
実は私もプーさんのストーリーはよく知りません。失礼ながら「はちみつをなめてるクマ」くらいの知識しかないのですが、それでもわかる構成になっていました。
本書では、住民(?)からの通告をもとに、調査がすすめられます。
プーさんの年齢、健康、検診情報、食事、精神状態、保護者の存在などについて、多角的に深く分析されていきます。
調査対象となるポイントがとてもリアルなので、児童相談所の業務をよくわかっておられるのだろうと感じました。
例えば、ぷーさんの行動や嗜好について、心理面含め分析されていきますが、扱うのがやはりプーさんなので、滑稽だったり、非現実的だったりします・・・が、やはり面白い。
プーさんは普段から完全に下半身を露出しています。ボディラインがはっきりとわかるピチピチの赤いTシャツを着ているだけです。そして何より、プーさんはそのことに羞恥心を抱いていません。性に関する観念にも歪みがあると考えられます。
引用元:プーさんを児童虐待で保護すべきか?-ソーシャルワーカーの想像力と文学性 篠原拓也ゼミ「プーさん会議」著(2021)
これはあくまで一部ですが「くまのプーさん」のストーリーから様々な情報を読み解き、プーさんを一時保護すべきか否か、ソーシャルワーカーはどのように考え、役割を担うのか。一時保護の目的とは何なのかを考えていく内容です。
私が特に感銘を受けたのは「想像力と文学性」の章。
私たちの記述・説明の能力は、いつだって限られた認識枠組と語彙の中でなされる不十分で権力的なものです。
引用元:プーさんを児童虐待で保護すべきか?-ソーシャルワーカーの想像力と文学性 篠原拓也ゼミ「プーさん会議」著(2021)
とても鋭い指摘です。
社会福祉士・精神保健福祉士はいずれの現場においても記録を書くことがあると思いますが、記録は事実だけを書こうとしても、何を書くか否かを選別するのが人である時点で、100%客観的であることはできません。
記録とは主観的なものです。
記述・説明いかんによって、物語はかわってしまう。
1つのケースについていくつもの物語ができうるし、一時保護するか否かも変わりうるという指摘。
福祉の仕事は、人の人生に深く関わることが多いゆえ、私たちの記述・説明には権力性が備わっているのでしょう。
身の引き締まる思いがしました。
児童福祉に興味のある方、社会福祉士・精神保健福祉士・ソーシャルワーカーとしての記述・説明を磨きたい方は、ぜひご一読を。
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