
児童相談所と警察の連携ってどうなっているの?
児童虐待の相談件数が増え続ける中で、「児童相談所と警察の連携ってどうなっているの?」という疑問をもたれます。
実際、ニュースでも「警察が児童相談所に情報提供」「連携強化」などと報じられていますが、現場ではそんなに簡単な話ではありません。
私は児童相談所で児童福祉司として働きながら、警察とくりかえし協働してきました。
そしていつも思うのは、
“両者とも正しいのに噛み合わない”
という現実です。
この記事では、現場でケースワーカーとして働く立場から、
「なぜ連携が難しいのか」
「実際にどんなズレが起きているのか」
を、私の実体験をもとに整理してお伝えします。
結論|連携が難しい理由は「使命の違い」に尽きる(けれど必要)

結論から言えば、児童相談所と警察の連携が難しいのは、
そもそも使命や目的が根本から違う
からです。
- 警察 :治安維持、犯罪の予防・鎮圧・捜査など
- 児童相談所:子どもの最善の利益
どちらが正しいというより、
どちらも正しい。
ただし方向性が違う。
この“ズレ”が、ケース対応のスピード感や優先順位にもろに影響し、結果として連携の難しさにつながります。
理由|噛み合わない構造が最初からある

捜査・逮捕と一時保護では目的が違う
親が子どもに著しい暴力を加えた、あるいはその疑いが強い場合、
- 警察は親の逮捕・捜査に動く
- 児童相談所は子どもの保護に動く
同じ出来事でも、見ている相手と方向性が違うんです。
そして児童相談所は逮捕そのものには関与しません。
結果として、
子ども中心で動きたい児相と、加害者中心で動く警察が噛み合わない
という構造が生まれます。
警察の段取り → 児相対応の遅延を招くことも
警察は多くの案件を抱えています。
児相関与のケースだけに即着手できるとは限らず、
捜査 → 逮捕 → 送致 → 交流 → 起訴 …
どうしても時間がかかります。
その間、児相としては
「子ども中心で早く動きたい」
でも、警察の段取りを待たざるを得ず、
対応がスムーズにできない
ということも、全国的に起きていると考えられます。
夜間・休日対応は、どうしても警察に頼らざるを得ない

児童相談所は24時間常駐体制が全国で整っているわけではありません。
多くの児童相談所では、夜間や休日はホットラインや当番制で対応しますが、
即時に現場へ行く体制が不十分な自治体のほうが多いのが現実。
結果、
110番 → 警察が現場へ → 状況確認 → 児相に連絡
という流れが一般的になります。
体験談|現場で実際に感じる“ズレ”と、“人”としての温かさ
地域住民や親族が110番し、警察が対応するところから始まるケースは多くあります。
夫婦喧嘩の目撃から面前DVとして後日通告されたことは、私自身も経験しました。
▶詳しくはこちらの記事
また、親が子どもを叩いた事実が認められたり、子どもが「家にいたくない」と訴えたり、著しい怪我が確認された場合などには、警察はその場で児童相談所へ通告し、一時保護を依頼することがあります。
原則は児童相談所が子どもの身柄を引き取りに行きますが、児相側の体制が整わない場合は、
警察が児相に子どもを連れてくる運用
も全国的にあります。
ここは自治体によって全然違い、法律にも細かく規定がないため、
結局は「運用」で決まっている部分が大きいんです。
法律で細かく定められていない部分も多く、最終的には児童相談所と警察の幹部が協議し、運用を決めていく――これが現場のリアルです。
ただ、組織同士では緊張が生じやすいものの、実際に警察官の方々と現場で一緒に動くと、協調性が高く、真面目で、温かい人が多いことに驚かされます。
「組織としての緊張」と「個人としての人柄」が大きく違う
――このギャップを目の当たりにすると、“人としてはわかり合えるのに、組織になるとそうはいかない”という現実に、なんとも言えない気持ちになります。
“顔の見える関係”が連携の質を変える

連携が難しくなる原因の一つは、
話し合いが、ただの“ぶつけ合い”になってしまうことです。
そこで大切になるのが、
“顔の見える関係づくり”。
▶詳しくはこちらの記事でも解説しています。
顔の見える関係ができれば、何もかも解決する万能策ではありません。
すべてを丸く収める魔法は、残念ながら存在しません。
それでも、顔が見えるだけで確実に“まし”にはなる。
私は現場でそう感じてきました。
- 電話では伝わらない迷い
- メールでは拾えない人柄
- お互いの使命や葛藤
こうした温度が共有できるだけで、対話の質はガラッと変わります。
ケースワークという仕事は、
クライエントだけを相手にしているわけではありません。
関係するすべての人が、広い意味で“クライエント”。
所属内の職員であっても、その関係は支援の一部です。
つまり私たちは、
全方位に対してケースワークをしている世界で働いている。
そういう職種です。
そう考えると、「一瞬たりとも気が抜けない世界じゃないか」と思えてきますよね。
でも、現実的にそんな張りつめ方はできません。
私だって所内では、できるだけリラックスし、フランクに関わることも多い。
ただ、要所では“所内の人もクライエント”くらいの距離感・役割意識を持つ。
これがあるだけで、
自分の感情コントロールがしやすくなる
という実感があります。
まとめ|理想と現実の隙間で、決断する

児童相談所の福祉職は、決断する仕事です。
理想だけでは進めないし、かといって現実だけを見ても折れます。
泥水の中から、少しでもきれいな水をすくい上げる仕事。
私自身、そういう場面に何度も立ち会ってきました。
本当に、つらく、苦しい現場です。
それでも、
現場の人とのつながりに救われた時があるから、
今日も折り合いをつけながら歩き続けています。
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児童福祉司は、MSW(メディカルソーシャルワーカー)とも連携します。
同じ“ソーシャルワーカー”だからスムーズにいくだろう、と思いきやそうはいかない。
その背景には、“組織を背負う”という現実があります。詳しくはこちらの記事で解説しています。
結局のところ、児童相談所のケースは、「誰もが納得できる一つの正解」を選ぶことはほぼ不可能です。
そんな手法が通用するのは、軽微なケースだけ。
児童相談所がが扱うのは、一筋縄ではいかない。
セオリー通りなんてまずいかない。
どの“泥水”をすくうか、という世界です。
だからこそ、私たち児童福祉司は、責任をもって“決断する仕事”を担っています。







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