性的虐待への対応はどうするのか?【児童福祉司経験者が解説します】

seitekigyakutai_taiou_zidouhukusisi_zidousoudannzyo

当サイトはアフィリエイト広告を掲載しています

性的虐待・・・そんなことってあるの?

なかなか気づかれないだけで、実はとても多いと言われてるんだ。

こんにちは。社会福祉士・精神保健福祉士のぱーぱすです。

この記事は、わたしが児童相談所で児童福祉司(ケースワーカー)をしてきた経験をもとにまとめました。

もしかしたらあなたは、「そんなことをする人間がいるのか?」「血のつながっていない人間がするのでは」と感じるかもしれません。

しかし実際は、血縁関係に関係なく起こることなんですね。

児童虐待防止法の定義によると、性的虐待は「保護者や現に子どもを監護する者から、その監護する児童への性的暴力」ということになります。

この性的虐待は、4つの虐待種別のうち、わずか1.1%です。
参考:子ども家庭庁HP 令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)_PDF

じゃあ性的虐待はそれだけ少ないのか?

そうとも言いきれません。性的虐待は最も発覚しにくい虐待だからです。

例えば子どもの体にケガやアザがあれば、大人は「どうしたの?」と質問しますよね。
こうして身体的虐待は発見されやすいです。

他には、子どもが毎日同じ服を着ていて汚れていたり、学校を休んでも保護者から連絡が無い日々が続き・・・。
こうしてネグレクトは発見されます。

では、性的虐待はどうでしょうか?

やはりですが、なかなかわかりません。見た目に明らかな確証の無いことが多いからです。被害をうけた子どもの証言しか、証拠がないこともあります。

そうした子ども自身も、さまざまな理由で言い出せないことが多いです。

例えば、『言っても信じてもらえない』と思う(経験がある)子もいます。

加害者から「言ったら痛い目にあわせる」などと、口止めされていることもあります。

『言ってしまったら家族を壊すことになる』と、不安で言えない子どももいます。

したがって、発覚している性的虐待は、氷山の一角です。

この記事は、性的虐待にどのような対応がなされるのか。
ガイドラインや経験をまじえながら、現状をお話ししていきます。

性的虐待への対応はどうするのか?【児童福祉司経験者が解説】

性的虐待はどのように発覚するのか

性的虐待が発覚するきっかけは、”ほのめかし“のような表現が多いです。

例えばそれは、「体を触られる」「お風呂をのぞかれる」などの発言だったりします。

幼い子どもや小学生のであれば、性的虐待を受けている認識なく話すこともあります。例えば「お風呂で洗いっこする」「着替えをのぞかれる」などです。

思春期以降になると、性的虐待という認識をもって話す傾向があります。
(ただし、虐待をうけはじめたのは思春期以前から・・・ということもあります)

最近では、携帯やパソコンに入っている画像を、家族が偶然みつける例もあります。

でもくりかえしますが、性的虐待はもっとも発覚しにくい児童虐待です・・・。

性的虐待が発覚したらどうなるか?

虐待の初期調査は、市町村の家庭児童相談室が行うこともありますが、性的虐待は別です。

性的虐待は、一時保護の判断をその場ですることが必要なので、一時保護の判断権限をもっている児童相談所が初期調査を行うことが多いでしょう。

性的虐待は、それだけ深刻な虐待ということです。

性的虐待が発覚して通告をうけた児童相談所は、子どもへの初期調査・安全確認を行います。

対応の流れは、『児童相談所における性的虐待対応ガイドライン 2011 年版』で公開されています。

出典元:児童相談所における性的虐待対応ガイドライン 2011 年版より抜出

(盛り込まれすぎてて見辛いのは行政文書の悪いクセです・・・)

実際は、この通り進むわけではありませんが、児童相談所は行政機関なのでガイドラインはよくチェックしています。

児童相談所は、通告者から情報を確認したうえで、子どもへ被害調査面接を行います。

被害調査面接は、『一時保護するかどうかを判断する面接』です。
(被害内容をくわしくきく面接ではありません)

面接での聞き方には専門性がもとめられます。

例えば誘導や強要にならないように、ガイドラインでは留意点がしめされていますね。
(見てもらうとわかりますが、ガイドラインはかなり具体的で実用的です)

この面接で性的虐待をうかがえる最小限の情報がわかれば、児童相談所はすぐに調査のための一時保護に踏み切ることになります。

一時保護をしてからの対応

出典元:児童相談所における性的虐待対応ガイドライン 2011 年版より抜出

さきほどのフローチャートの続きです。

一時保護をすることになれば、児童相談所は同時並行的に動くことになります。

このあたりの動きは児童相談所の規模や、その時の人員体制によって臨機応変に変わるでしょう。

まずは、親権者・保護者へ一時保護をしたことを告知します。

このときの反応は、本当にさまざまです。

怒る、疑う、「心当たりがあった」と落ち着いている、などなど。

子どもに黙っておくよう口止めしていることもあるので、なかなか口を割らない保護者もいます。

なお、一時保護をおこなった児童と同性のきょうだいが家庭内にいれば、きょうだいの安全確認・一時保護に向かうこともあります。

同じように被害をうけている可能性が高いからですね。

さらにこうした裏側で、児童相談所は関係機関(市町村、学校、警察署など)と連絡をとり、調査をすすめていきます。

このように、さまざまなことを同時並行ですすめるので、一時保護することになると児童相談所内は騒然とします。

性的虐待の対応は、他の虐待よりも留意点が多いです。児童相談所における性的虐待対応ガイドライン 2011 年版はよく活用されていますね。

法的被害事実確認面接(forensic interview)

一時保護した子どもには、調査として面接を行います。

くり返しきくことは、子どもに被害をくり返し思い出させることなので禁忌です。

原則として、被害内容は面接1回で聴ききることです。

そうした面接にはいくつか名前がついています。

  • 法的被害事実確認面接
  • 事実確認面接
  • 司法面接

いろんな呼び方がありますが、意味するところはだいたい同じです。

法的被害事実確認面接は、子どもからの被害事実の聴き取りを、法的立証性のあるものとしてきくために、欧米で特別にデザインされた面接法です。

国際的に知られた方法であり、国連が使うように勧告している面接法です。
とても構造的な面接をすることになります。

法的被害事実確認面接(司法面接)は誰でもできる面接法ではなく、研修をうけることが必要です。

司法面接は性虐待や、身体的虐待、ネグレクト、DVや犯罪の目撃といった、子どもたちが経験した事実を聴き取る面接手法です。
性虐待などの虐待を受けた子どもは、児童福祉司等児童相談所職員、警察官、検察官、裁判官などの多くの職種に対し、何度もつらい体験を話さなければならず、そのたびにトラウマを再体験させられ、深刻なダメージを受けます。司法面接を、児童相談所・警察・検察で構成される多機関連携チーム(MDT)の枠組みで実施することによって、調査面接や事情聴取の回数を減らし、「二次被害」を防ぐことができます。
引用元:認定特定非営利活動法人 チャイルドファーストジャパン(CFJ)ホームページ FAQ

なお、日本で有名なのは次の2つのプロトコル。

約1週間、みっちりですね。それだけ高い知識と技術がいる面接ということです。
※ただしこうした面接技法は、他の面接にも応用できるので価値があります

面接は検察庁・警察・児童相談所が合同でおこなうことが多いでしょう。

この理由も、『同じことをくり返したずねて、子どもに負担をかけないように』という配慮のためです。

身体医学診察(虐待認定のための診察)

性的虐待をうけた疑いのある子どもには、診察をうけてもらうことがあります。

医学診察所見と被害(事実)確認面接の内容が照合されて、調査としての性暴力被害事実の評価が確実なものとなる。
引用元:児童相談所における性的虐待対応ガイドライン 2011 年版

明らかな証拠が見つかりにくい性的虐待において、客観的な事実がわかることがあります。

ガイドラインをもとにすると、身体医学診察をする意義は次のようになります。

  • 身体についての不安や誤った認識に対して、成長発達的には何ら問題が無い、
    将来子どもを妊娠し出産することについても何ら問題は無いだろう等と修正すること
  • 何か心配事は無いか尋ねて説明を受けること
  • 性感染症等への適切な治療を行い、健康な身体をとり戻すことが可能であると
    学ぶ経験
  • 子ども自身の身体イメージの回復につながり、重要な心理的ケアの意味を持つ

 

最終的にどうなる?

性的虐待をうけた子どもは、一時保護解除された後にどのように暮らしていくのか?

これはケースバイケースです。

もともと加害者と一緒に暮らしていた場合は、加害者とは二度と会わせない対応をとるのが原則です。

この理由は、性的虐待に次のような特徴があるからです。

  • とても再発率が高い
  • エスカレートしていく傾向がある
  • 加害者はその生涯を通して、被害者を生み出し続ける傾向

加害者の「もうしません。」という言葉をもって、『反省しているようだから、再び同居』とは簡単にいかないわけです。

結果的に、もとの住居に戻れないこともあります。

例えば、親族と一緒に暮らすことがありますし、里親や入所施設(児童養護施設など)で暮らすこともあります。

児童相談所では、子どもと面接を重ねて希望をききとりつつ、非加害親の思いや、子どもを守る力の調査等をすすめていきます。

性的虐待の再発を防ぎ、被害にあった子どもの今後と将来のためには、非加害親の力がとても大切です。

加害者はどうなる?

場合によっては逮捕されます。

例えば、性交同意年齢というものがあり、日本では13歳未満であれば同意は成立しません。法定強制性交としていかなる条件においても強制的な行為となります。

刑法 第176条 強制わいせつ罪
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
刑法 第177条 強制性交等罪
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、こう門性交又は口こう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

実刑が確定することもあります。

ちなみに、加害者が逮捕されれば、被害を受けた子どもは家に帰れる可能性が出てきます。当面は加害者と接触する可能性が無くなるからです。(ただしウワサが出回っているなら懸念点となる)

性的虐待は児童相談所・児童福祉司が担当することが多い

児童相談所で児童福祉司として働く方は、性的虐待に対応することがよくあるでしょう。

あなたが児童福祉司になろうかと考えているなら、心づもりをしておいてくださいね。

当サイトでは、児童福祉司について20以上の記事を書いています。リアルな話がつかめると思いますので、ご興味のある方はご覧くださいね。

コメント