
え?夫婦喧嘩なんてどこの家でもあるんじゃない?仕方ないんじゃないの?

それぐらい普通って思っちゃいますよね。
私は某自治体で働く社会福祉士・精神保健福祉士です。現場経験はおよそ13年。
いちばん長い職歴は、児童相談所の児童福祉司です。なので、警察からの通告を受けて、保護者さんに電話をかけたり、家庭訪問をしていたことがあります。
あなたは夫婦喧嘩を子どもに見せること(見ること)について、どう思いますか?
- 夫婦喧嘩を子どもに見せるのは良くないけど、メリットもある。
- 子どもの前で夫婦喧嘩をしても、仲直りするところまで見せたら大丈夫。
- 感情に向き合うたくましさが育つ。だから自分も強くなれた。
多くの方は、ご両親の夫婦喧嘩を見たことがあると思います。
アニメやドラマでも見たことはあるでしょう。例えば、『クレヨンしんちゃん』は面前DVのオンパレードです。
@shinchanota #クレヨンしんちゃん大好き #クレヨンしんちゃん #爆笑 #おもしろ #お笑い #shinchan ♬ オリジナル楽曲 – しんちゃんオタ
- ひろしとみさえが、しんのすけの前で離婚をテーマに口論 → 心理的虐待(面前DV)
フィクションなので、しんのすけは伸び伸びしていますが、二人が仲直りできるようにピエロのように振舞っているとも言えます。
ちなみに、みさえがしんのすけにする『グリグリ』は、身体的虐待です。
お茶の間で笑って観ていたアニメが、実は児童虐待だらけだったなんて、びっくりしますよね?
サザエさんだって、ドラえもんだって、夫婦喧嘩は子どもの前でやっていることがあったでしょう。
そうして私たちは、「夫婦喧嘩くらい、どこの家庭でもある、自然なこと」として、学んできたのです。
そういう時代だったのです。児童虐待について、あまり認知されていなかった。
昭和生まれの方なら、学校の先生から叩かれたりけられたことはあったんじゃないでしょうか?
だから、夫婦喧嘩が児童虐待になるなんて、思ってもみなかったのではないでしょうか?
では、どうして今、夫婦喧嘩が児童虐待だと言われるようになったのか?
警察が「児童相談所に通告します」と言っていたけれど、その後はどうなるのか?
解説していきますね。
子どもの前で夫婦喧嘩=虐待|警察は児相に通告|児童福祉司経験者の解説
児童虐待についての法改正・認知の広がり
夫婦喧嘩の解釈は変わりました。
大きな変化としては、2000年に児童虐待防止法が成立したことで、児童虐待として定義されたのです。
・虐待は4種類 ①身体的虐待 ②心理的虐待 ③ネグレクト ④性的虐待
・面前DV(子の前で夫婦喧嘩)は心理的虐待
児童虐待が定義され、児童虐待の件数は、右肩上がりとなりました。
人口は減り続けているのに、児童虐待は過去最多を更新し続けています。
心理的虐待については、次のように定義されています。
児童虐待の定義
児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(中略)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
引用元:児童虐待防止法 第二条 第四項
夫婦喧嘩も、児童に著しい心理的外傷を与える言動として解釈され、子どもの前で夫婦喧嘩をすることは、子どもへの「面前DV」であり、心理的虐待となったのです。
暴力はもちろんダメですが、暴言でも虐待となります。

どこからが心理的虐待になるの?そんなに激しい口論じゃなかったんだけど・・・
では、どこからが心理的虐待なのか?
答えは受け手側次第。つまり、虐待かどうかの判断基準は子どもです。
・親の「思い」「しつけ」「意図」は関係ない。
警察の活動をとり決めた規則も、変わりました。
こちらがその条文です。
(児童虐待を受けたと思われる児童についての活動)
児童虐待を受けたと思われる児童を発見したときは、速やかに、長官が定める様式の児童通告書又は口頭により児童相談所に通告するものとする。
引用元:少年警察活動規則第39条第2項目
したがって、警察は子どもの前で夫婦喧嘩があったとわかれば、児童相談所等に心理的虐待として通告するのです。
児童相談所への虐待通告者は、警察が51%
児童にいったい誰が通告しているのか?
実は、虐待通告の51%が警察です。
≫参考:子ども家庭庁 令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)
児童相談所に寄せられた虐待相談の相談経路は、警察等が最も多く、次いで近隣・知人、家族・親戚、学校からが多い。
警察から児相への虐待通告で、いちばん多いのは心理的虐待。今回の面前DVなどです。
警察が児童相談所に通告したらどうなるのか?連絡がこないワケは?
警察から児童相談所への虐待通告でよくあるパターンがこちら。
警察から児相への通告(よくある例)
- 夫婦喧嘩が過熱して、夫婦のいずれか(ご近所)が警察を呼んだ。
- 警察が臨場。夫婦や子どもそれぞれから事情聴取。
- 子どもが夫婦喧嘩を見聞きしていたとわかった。
- 警察は心理的虐待として児童相談所へ通告
- 後日、児童相談所から夫婦宛てに電話がある
警察は児童相談所へ、あなたの情報(住所、氏名、家族構成、連絡先、事象の概要など)を伝えます。
この連絡は、書面でも必ずされます
口頭により通告したときは、その内容を記載した書面を事後に当該児童相談所に送付するものとする。
引用元:少年警察活動規則第39条第2項目
警察は、文書を作るのに時間がかかります。
警察内部で決裁もされないと、児童相談所に送付できません。
そして、警察から通告を受けた児童相談所も、すぐ対応を始められるかというと、ケースバイケースです。
児童相談所はさまざまな通告・相談に対応しています。人も足りてはいません。
それに、児童福祉司が保護者へ連絡するのは、必要な周辺調査をしてからです。
こうした流れがあるので、児童相談所からあなたに連絡が入るまで時間がかかってしまうのです。
心理的虐待は、身体的虐待よりも子どもの脳にダメージを与える
面前DVがダメなのはわかったけど、なんでダメなのか?
実際、子どもに悪影響があるとわかっているからです。
こちらが、その影響例です。
- 保護者の真似をして暴力を振るうようになる
- コミュニケーションの手段として暴力を使うようになる。その様子をみた周りの人か
らは「乱暴な子」と思われてしまう。 - いつ喧嘩になるかと心配し、いつも怯えて生活するようになる。
- 保護者の喧嘩を止めたいのに止められない自分は「価値がない」と思うようになり、
「自分なんかどうでもいい」と自信を持てなくなる。 - 色々なことに無気力になり、ぼんやりしたり、勉強に集中できず成績が下がったりする。
- 学校や幼稚園・保育園に行きたがらなくなる。「眠れない」「お腹が痛い」などの体の
不調を訴えるようになる。 - いつも心配を抱えているので、イライラしやすくなる。
引用元:埼玉県警察HP 保護者の方へ~心理的虐待について~
だいたいは思春期頃からいろんな問題が起きるようになります。
面前DVは子どもの脳の発達に悪い影響を与え、脳の容積が減少することがわかっています。
児童虐待が子どもの脳へ与えるダメージについては、小児精神科医の友田明美先生が先駆者です。
NHKのプロフェッショナルで特集されたこともありましたね。著書も多数の方です。
心理的虐待の悪影響を数値で指摘しています。
「言葉によるDV」を目撃してきた人のほうが,身体的DVを目撃した人より,脳のダメージが大きかった。具体的には,視覚野の一部で夢や単語の認知に関係する舌状回の容積が,身体的DVは3.2パーセントの減少に対して,言葉によるDVでは19.8パーセントの減少と6倍にもなっていた。
引用元:公益社団法人日本心理学会HP 体罰や言葉での虐待が脳の発達に与える影響 友田明美
なので、よくある「夫婦喧嘩を子どもに見せるのは人間関係の勉強になる」「仲直りしたら大丈夫」という説は、科学的根拠がありません。
メリットがあるどころか、器質的に脳にダメージが起きるのです。詳しくは、こちらの本でも書かれています。
夫婦喧嘩を子どもに見聞きさせない対策は?
結論
- 子どもの前での夫婦喧嘩は心理的虐待
- 子どもの脳の発達に悪い影響がおきる

そんなこと言われても、ケンカってコントロールできなくない?相手も悪いし・・・。
お気持ちはわかりますが、何らかの対策は考えないといけません。
例えば、次のような方法があります。
面前DVを避ける方法
- 喧嘩しそうになったら離れる
例)どちらかが部屋に行く、家を離れるなど - 喧嘩になりそうな話は、子どもがいない時にする
- 夜じゃなく、朝に話し合う
勘違いされやすいですが、夫婦喧嘩はあっても良いのです。
問題は、夫婦喧嘩を子どもに知られることです。親同士のことで、子どもを巻き込んだらダメってことです。
ちなみに、夫婦喧嘩の大半は夜に起きています。
夜は、仕事や学校が終わって、家族が家で過ごす時間。
夫婦はお互いに疲れているので、イライラしやすいです。
お互いが冷静に話し合えたらベストですが、相手がすぐに感情的になってしまうなら、カンタンではありません。
なので、いったんは眠って、朝のフレッシュな頭で話すのも方法です。
それと、理性コントロールをより一層難しくさせるのは、実はお酒です。
冷静な時にどれだけ話し合って、反省して、「もう夫婦喧嘩は子どもの前ではやめよう!」と決めても、酒を飲んだらまた繰り返してしまう・・・
だから、夫婦のどちらかが、いわゆる「アル中」や酒癖の悪い人(病名としては『アルコール依存症』)であれば、面前DVが繰り返されてしまいやすいです・・・。
夫婦にはそれぞれの事情があるので、ここで挙げた方法は通用しない人がいると思います。
そうした悩みを、児童福祉司に話してくださると良いと思います。そのほうが、子どもにとって前向きな話になります。
最後に
子どもをより良く育て、夫婦関係を変えるには、まずはあなたが変わることが始まりです。
私の経験上、夫婦喧嘩を繰り返している夫婦は、相手のせいにしています。
例えば、
- あいつが悪い
- 負けたくない。なめられる。
- 相手が変わってくれないなら、どうしようもない
- 家事をやってくれたら良いのに、しないから怒らないといけない
- 子どもを放ったらかしにするから、怒らざるを得ない
といった具合です。
夫婦喧嘩を何度もくり返して、家庭環境は悪化。子どもは不登校になったり、不安定になったり・・・果ては離婚して・・・・
といった、誰も嬉しくない結果につながったりします。
自分が変われば、相手も変わらざるを得ません。
語弊があるかもしれませんが、負けるが勝ちです。
(夫婦関係は勝ち負けではないのですが、ついついそうした感情がわくものですね)
お子さんが元気に育たれますように。日々、本当にお疲れさまです。
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