こう言う母親がいたら、どう声をかけますか?
日本でこの言葉はタブーでしょう。決して言ってはいけない。発言しようものなら物議をかもすと思われます。
母親になったことを後悔しているなど、おいそれと言える言葉では無いし、感じること、認めることはカンタンではないでしょう。
そんな風に感じること自体が間違い、不道徳だ、いずれ母親になったことを慈しむようになる、と声をかける人も多いと思われます。
誰もが母親から産まれてきました。
つまり、本書は誰にとっても無関係な話ではないのです。怖い話ですが、あなたの母親を理解することにもつながります。
もちろん、男女・既婚未婚とわず自らの身にも降りかかる話です。
レビュー『母親になって後悔してる』社会的タブーに切り込んだ本
『母親になって後悔してる』の著者とテーマ
イスラエルという国を知らない人はほとんどいないと思います。毎日メディアで悲惨な報道がされていますね・・・。
本書の著者は、そのイスラエルの社会学者・社会活動家である、オルナ・ドーナト氏です。
オルナ・ドーナト氏を引用でご紹介します。
テルアビブ大学で人類学と社会学の修士号、社会学の博士号を取得。2011年、親になる願望を持たないユダヤ系イスラエル人の男女を研究した初の著書『選択をする:イスラエルで子どもがいないこと(Making a Choice:Being Childfree in Israel)』を発表。2冊目となる『母親になって後悔してる』は、2016年に刊行されるとヨーロッパを中心に大きな反響を巻き起こし、世界各国で翻訳された。
引用元:新潮社ホームページより
著者自身は女性であり”母親になりたくない女性“であるとのこと。
なるべく中立に書かれている本ではありますが、インタビュー内容の引用等において著者のフィルターはかかっていると感じるので、この点を差っ引いて読んでいくと良い本だと思います。
本書のテーマは、社会的にタブーとされる『母になって後悔してる』という女性に声を与えることでしょう。
母親になって後悔してる女性など存在しない、というのは事実では無い。
ショッキングに感じる人、憤りを感じる人、少子化対策が叫ばれる情勢で不都合でもあろうテーマに切り込んでいるのが本書の斬新さ、勇気ある取り組みと感じます。
“母親”となっている女性を新たな視点で理解させてくれる本
母親になる = 自らの意思で選択した結果 では無い
本書で秀逸と感じたのは、
母親になる ≠ 自らの意思で選択した結果
イコールでは無いという切り口です。
女性が母親になる過程は多種多様。子どもをもつかどうかについて、パートナーとやり取りをしなかった人も多い。
何となく、当然のごとく流れとして。
イスラエルでは、「結婚→出産→子育て」を次のステージへ進むように歩んできた方はとても多いようです。(日本も同様ではないでしょうか?)
人生にもっと重要性と意味を与えたいという、ポジティブな考えから母親になる女性もいるでしょう。
でも、自分の意思では無かったけど、もっと悪い状況を避けるために母親になった女性も多いようです。
例えば、離婚をさけるため、周囲からの非難をさけるため、家から追い出されないため等・・・。
私たちは、生まれて大人になるまでの間に、「人生とはこういうものだ」「これが普通なんだ」と刷り込まれ続けてきています。
学校に行って、就職して、恋愛をして、結婚して子どもをもって、老後は孫を育てて・・・のように。
このライフコースが普通であり、規範であり、ロードマップであると、私たちは社会から刷り込まれ続けているというのです。
最近のスマホゲームでは「クエスト」がよく設定されていますね。
〇〇をクリアして、次は△△を・・・と。達成すれば前進している気がするし、進化・進歩・自己成長している気がします。こうした感覚とも似ているのかもしれません。
私が特に新しい視点を得たと感じたのは「社会的指示」によって母親になる女性の存在を指摘している点。
社会的指示というのは「母親にならないといずれ必ず後悔しますよ」「子どもをもつのが人の道ですよ」「子どもをもたない女性は完全ではない」等の風潮や圧力といったものです。
どういう指摘かというと、一見すると、自らの意志で母親になったようだけれど、実は社会からの指示を受けて受動的に母親になることを決めた女性が多く存在する、という指摘なんですね。
“後悔”という感情の深掘り
本書では「後悔」という感情を深堀りしています。
例えば、
母親になったことを後悔 ≠ 子をもったことを後悔
この2つ。イコールでは無いんですね。
子どものことは後悔していないけど、母親になったことは後悔している、という感覚。
「子どものことは大切、素晴らしい子、愛している。」
そう語られる一方で「母親であることは私がなりたい立場ではなかった」と語られていきます。
「どういうこと?」と思いましたが、本書を読み進めていくとギモンが解消されていきました。
人は生きている限り選択し続けることになりますが、選択の結果、後悔する可能性は避けられません。
ある調査によると、アメリカ人で最も多い後悔は教育関係の選択だったようです。「中退しなければ良かった」「大学に行けばよかった」「違う進路にすれば良かった」等でしょう。
後悔は多くの人が恐れる感情。私だってそうです。
例えば、最近の本屋で人気のタイトルに「後悔しないための~~~」「~~で後悔したこと」等、「後悔」というワードがよく使われています。
後悔という言葉はそれだけ人をひきつける魔力があるんですね。誰だって後悔は避けたいです。
そして、「母親になるかどうか」についても、後悔とセットで語られることが多いです。
「母親にならないとあなたは必ず後悔します」というのがキラーワードですね。この言葉は予言めいていて、多くの女性を突き動かしているとされます。
本書の良くない点(訳文がちょっと読みづらい)
本書の良くない点は読みづらい箇所があるということです。
例えば、以下のような文があります。
そして、「私は母であることに苦しんでいるが、わが子の笑顔は私にとって世界のすべてと同じぐらいの価値がある」と言うことが、「私は母であることに苦しんでいて、それを価値あるものにするものは世界に存在しない」と言うことと同一ではないということだ。
すぐには理解しにくい・・・。読む手を止めて考える必要がありました。
論文箇所と口語文の訳では違いがあるのかな?
でも、23人の女性にインタビューしているやり取りはとても読みやすいです。
23人もの女性の後悔がわかるのはとても貴重
現代では「子の無い人生」「母親にならなかった理由」等をテーマとした本が多数出版されていますが、その著者自身の体験が内容のメインとなりがちです。
つまり、あくまで著者である一人の人の例でしかない。これがデメリットです。
このテーマにおいては、より多くの人の実際を知ることが大切だと思います。
なぜなら、母親になるかどうかを迷う女性、母親にならなかった女性、母親になった女性の過程は様々だからです。
お一人お一人が特殊で、普遍化しにくいんですね。
本書は 著者の体験談ではなく、23人のリアルな実体験を「母親になった後悔」という切り口でつまびらかにした内容となっています。
これだけでも一読する価値が十分あるでしょう。
また、個人的には、社会的にマイノリティな立場にある彼女たちのリアルを知ることは、社会福祉の視点において大切であると感じています。
私が本書を読んだ理由
児童福祉の分野で仕事をするなかで、さまざまな”母”に出会ってきました。
仕事優先の母親、子どもをかわいいとは思えない母親、きょうだいで差別してしまう母親、子にすがる母親、子への関心が薄い母親。
“不幸になると分かっていて子どもを産んだ”という母親に出会ったこともありました。
私にはギモンでした。「それならどうして母親になったのだろう・・・?」と。
質問を重ねることもはばかられ、それ以上は聞きませんでしたが、私には疑問が残り続けました。
恥ずかしい話、私は本書を読むまで「母親になれば、たいていの女性は子どもを第一とした存在になる」と、ボンヤリ考えていました。
しかし、本書を読んで、この理解がいかに表面的で、浅い視点だったかわかりました。
母親と呼ばれる女性たちの支援について、新たな視点と洞察を与えてくれる本でした。
※「母親になって後悔している女性は虐待をしている」というわけではありませんので誤解無きようお願いします。
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