この記事は、2021年9月に公開した内容をもとに加筆・再編集したものです。
当時の自分の悩みや気づきを振り返りながら、いまの視点で整理しています。

ケースワークってどうしたら良いの?正解がわからないよ・・・
ソーシャルワーカーの現場では、毎日のように迷うことがあります。
作業所でも、デイケアでも、相談支援でも、高齢者分野でも──
「どう言ったらいいんだろう?」
「どんな支援をすれば良いんだろう?」
「あの人にとって“正解”はなんだろう?」
そう自問しながら働いている方も多いのではないでしょうか?
かくいう私自身も、長年ケースワークに携わってきたなかで、
「正解がない」という現実に、何度も打ちのめされてきました。
でも、少しずつわかってきたのです。
ケースワークには“正解”はないけれど、“目的地”はある。
それがわかると、支援がずっと楽になりました。
「ラーメン屋を開きたい」と言われたとき、どう答える?
たとえば、就労継続支援の現場で利用者さんがこう言ったとします。
「自分のラーメン屋を開きたいです!」
このとき、支援者の反応はさまざまでしょう。
- とにかく応援する
- 「うまくいかなかったらどうするの?」と慎重に問う
- 理由を掘り下げ、アセスメントする
- 一緒に必要な準備を調べる
- 「やめた方がいい」と伝える
おそらく、どれも間違いではありません。
支援者の数だけ、答えがきっとある。
応援すれば相手は喜ぶかもしれません。
慎重に問えば、リスクを減らせるかもしれません。
ただ、頭ごなしに否定すれば支援関係は終わってしまうかもしれない。
「ラーメン屋を開きたい」という希望をどう扱うか?
それは“作業所として支援できることなのか”という問いにもつながります。
だからこそ、ケースワークには「妥当な道」はあっても、「唯一の正解」は存在しないのだと思います。
先輩や上司が教えてくれる“答え”の正体
支援で困った状況に出くわせば、上司や先輩に相談するのが安心です。
相談したら、こんな返事が返ってくることもあります。
「それなら〇〇って言ったらいいよ」
「そういうときは〇〇するといい」
優しい先輩や上司が“答え”をくれると、ほっとします。
――けれど、その答えは本当に正しいのでしょうか?
先輩や上司も、一人の人間です。
経験や知識から導き出した“ひとつの答え”ではあります。
私たちが組織の一員として、その指示や助言に従って動くことは正しいです。
それは職員としての責務であり、何の問題もありません。
しかし、「ソーシャルワーカーとしてはどうか」という視点に立つと、
上司や先輩の答えが“正解”とは限りません。
彼らもまた、迷いながら決断をし、言葉にしている。
それはあくまで「ひとつの解答例」にすぎないのです。
私自身も、かつては「どうしたらいいですか?」と聞き回っていました。
それが少しずつ変わっていったのは、
“答えを探す”より、“目的地を意識する”ようになったからです。
“目的地”を意識するケースワーク

利用者さんと話すとき、私は今こう考えるようにしています。
「このケースワークの目的地はどこだろう?」
「この人が望む生活の先に、何があるだろう?」
そう考えると、
「どうしたらいいか」「何を言えばいいか」は、自然と見えてきます。
「どうしたらいいか」という”目先のToDoだけ”に目を向けると、
そのたびにあわてふためいてしまいます。
目的地を見ていないからです。
まるで、山頂を見ずに足元だけを見て登っているようなもの。
「次の一歩をどこに進めたらいいですか?」と、
周りに聞きながら歩いている状態です。
そうではなく、まず目的地を知ることが大切なのです。
そしてその目的地とは、利用者さん(クライエント)との間で一緒に見つけていくものです。
これがケースワークの基本的な原則です。
もちろん、“介入型”のケースワークにおいては、
目的地が支援者側に明確に定まっていることもあります。
たとえば、児童福祉司が児童虐待の再発防止を目指す場合、
最優先は子どもの安心と安全です。
親がどう思っていようと、その点だけはぶれません。
この場合、目的地そのものははっきりしています。
しかし、そこへ向かう方策の難易度は非常に高い。
その道筋を描くことこそ、ケースワークの腕の見せどころです。
いずれにしても、原則は相互関係のもとで目的地を定めていくこと。
そのうえで、
「次に何をしたら良いか」という方策を考えていきます。
Aコース、Bコース、Cコース……。
人によって思いつく道筋(レパートリー)の数も、
選び方の傾向も違って当然です。
支援の現場は、学校のように“正解”を教えてくれる場所ではありません。
問いすらも、自分たちで立てる。
その問いの質も、力量の1つ。
それは、福祉の仕事が「人の人生」と向き合う仕事だからです。
教科書の正解と、現場の“迷い”のちがい

私たちは長いあいだ、
“先生が出す問題には正解がある”という教育の中で育ってきました。
社会福祉士・精神保健福祉士の国家試験も、選択肢から答えを選ぶ形式です。
しかし、現場には「明らかな正解」などありません。
むしろ、「どの答えも一理ある」世界で仕事をしています。
だからこそ、迷って当たり前。
迷うことは、支援に真剣である証拠だと、私は思います。
「迷わず即断」
――そんなソーシャルワーカーに憧れなくても良いのです。
こうした実践の大切さは、尾崎新さんの「ゆらぐ」ことのできる力:ゆらぎと社会福祉実践で学びました。
“正解のないことに答え続ける”という仕事
ケースワークとは、正解のない問いに答え続ける仕事です。
その道は、決してラクではありません。
けれど、あきらめずに経験を積むうちに、
「支援の勘」や「問いの立て方」が上達するはずです。
私はソーシャルワーカーとなって10年以上たち、
ようやく”無闇な”困り方はしないようになってきた気がします。
ほんとうに、ようやくです。
それでも、葛藤が無くなることはありません。
人の人生に関わることなので、これは自然なことです。
ですから新人の間や数年程度の経験の間は、このような正解のないケースワークに「向いていない」と感じるのは当たり前。
そのように私は考えます。
まとめ:人生にも“正解”はない
ケースワークに正解がない理由のひとつは、
人の人生に正解がないからだと感じています。
支援を通してそのことに気づいてから、
私は自分の人生にも“正解”を求めすぎなくなりました。
既存の価値観やライフスタイルにとらわれず、
「自分はどう生きたいか」を考えるようになった。
それは、とても自由で、創造的な日々です。
社会福祉士・精神保健福祉士になって良かった。
そう心から思える理由のひとつが、この気づきです。
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