
今すぐ対応したほうがいいのかな……
でも、この状態で話すのがベストかな?
感情的になっている人から相談を受ける場面は少なくありません。
電話のこともあれば、面接や家庭訪問という形のこともあります。
「今すぐ話を聞くべきなのか?」
「この状態で話して意味があるのか?」
そう迷うシーンにたびたび出会います。
この記事では、クライエントの感情がピークに達しているときの対応について、
児童相談所での実務を通して私が考えてきたことを書いています。
万能な正解はありませんが、ひとつの実践として読んでもらえたらと思います。

約束した面接と、急な連絡――タイミングの主導権をどう持つか
「約束した場面」と「急な連絡」は前提が違う
感情的になっている人への対応について考えるとき、
まず押さえておきたいのは、
あらかじめ予定していた約束の場面と、
急遽、対応する場面の違いです。
事前に約束していた面接や訪問では、お互いがその時に向けて話す準備や心づもりをしています。
そのため、比較的、冷静に話し合いができることが多い。
一方で、急な要件として連絡が入ってくる場合はどうでしょうか?
多くの場合、そこには切迫した事情があります。
不安が強まっている、心配が募っている、怒りが高ぶっている。
電話をしてきている時点で、感情がすでにピークに達しているケースも少なくありません。
タイミングの主導権=支援の枠を守ること
ここで大切なのは、
相手のタイミングと、こちらのタイミングを区別することです。
本来、支援とは、
お互いがあらかじめ約束した時間・場所で出会い、
話し合うという形がもっとも安定しています。
その枠組みがあるからこそ、
冷静な相談や支援が成立しやすいのです。
一方で、相手が感情的になって連絡してくる場面は、
相手側のタイミングによる“介入”とも言えます。
そこにそのまま応じ続けると、
こちらが巻き込まれ、
支援の枠組みごと相手側に持っていかれてしまうことがあります。
その結果、
無理な要望や一方的な要求が中心になり、
相談支援という形になりにくくなることも想定しておく必要があります。
もちろん、子どもに不利益のおよぶ切迫した状況等であれば対応すべきです。
ただし、その内容は冷静に精査しなければなりません。
一方で、こちらの主導で動く場合は、
こちらが介入する形になることも少なくありません。
たとえば虐待対応など、
明確に介入型の支援が必要な場面もあります。
だからこそ重要なのは、
その都度、状況を区分し、見極めること。
どの対応が適切なのか。
相手のタイミングに応じるのか、
こちらが枠をつくるのか。
その選別を怠らないことが、
支援の質を左右すると思います。
感情がピークの状態では、話し合いは成立しにくい
感情が高ぶった状態での話し合いは、まずうまくいきません。
「すぐに話せば解決する」というものではないことのほうが多い。
この状態では、
感情がピークの状態
- 感情的な訴えが中心になる
- 0か100かの極端な思考になりやすい
- 誤解が生じやすい
- 攻撃的なやり取りに発展しやすい
- 論点が散らばる
- 話した内容が記憶に残らない
といったことが起こりがちです。
さらに厄介なのは、
感情を正面から指摘すると逆効果になるという点です。
たとえば子どもに対して、
「今、怒っているよね」
と声をかけると、「怒っていない」と言いながら、
むしろ怒りが強まることがあります。
これは大人でも同じです。

あえて「インターバル」を設けるという判断
だからこそ私は、
意図的にインターバルを設けるという対応が必要なケースもあると考えています。
もちろん、すべてのケースに当てはまるわけではありません。
前提になるのは、相手や状態・状況をどう見立てるかです。
- 感情のコントロールが課題になっている保護者なのか
- 今は話すより、落ち着く時間が必要な状態なのか
- 子どもに不利益のおよぶ状況か
その見立てを踏まえた上で判断します。
相手のタイミングではなく、
こちらのタイミングで声をかけ直す。
それも、冷静な話し合いをするための一つの作法だと私は思っています。
1時間後、数時間後、あるいは1日後。
それだけで、感情の状態や受け止め方がまったく違っていることは珍しくありません。
「約束を取り直す」という枠の再設定
そのうえで、ここで誤解してほしくないのは、
こちらがすべてを主導していくことが良い、という話ではないという点です。
本来の相談支援は、
お互いが約束した時間・場所で出会うことから始まります。
その「約束の場」には、一定の対等性があります。
だからこそ、感情が高ぶったままのやり取りを続けるのではなく、
いったん区切りをつけ、改めて約束を取り直すという形をとる。
それは、相手を押さえ込むためではなく、
相談という枠組みを整え直すためです。
虐待対応のように、こちらが明確に介入しなければならない場面では、
こちらのタイミングで動くことが重要になります。
しかし、基本的な相談支援においては、
相手のペースだけで進めないこと、
そして改めて約束を取り直すことが、
今後の支援関係を維持していくうえでの枠組みを保つことにもつながると感じています。
それは、人と人との関係における境界線を保つという意味でもあります。
関連記事▶相談支援でパーソナリティ障害に巻き込まれない6原則|ソーシャルワーカー実践録
「今すぐ対応しない」ことへの迷い
正直に言えば、
「今すぐ対応しない」判断には迷いも伴います。
- 不誠実だと思われないか
- 手を抜いていると思われないか
- やるべきことをやっていないのではないか
そうした思いがよぎることはあります。
ただ、その迷いのまま動いてしまうと、
相手の感情に巻き込まれた対応になりやすい。
結果として、
相手の要望に振り回され、
こちらが本来するべき支援の軸を見失ってしまうこともあります。
主導権を取り戻すという意味
だからこそ私は、
支援の主導権を取り戻すという意味でも、
インターバルを設け、こちらから改めて連絡をするという選択が必要だと考えています。
特に児相のケース対応では、
初動や窓口の対応が、その後を大きく左右します。
ここへのこだわりは、私はかなり強いです。
誤解してほしくないのは、
無視をするわけではないということです。
対応しないわけでも、会話を断つわけでもありません。
必ず対応はする。
ただし、そのタイミングは選ばせてもらう。
クライエントや関係者の意のままに即座に対応することが、
必ずしもクライエントの利益につながるとは限らないということです。
主導権とは「支配」ではない
ここで言う「主導権を渡さない」とは、
話し合いの場で上に立つ、主張を押し通す、といった意味ではありません。
こちらが「どう対応するか」「どのような支援を行うか」は、
こちらの機関として判断し、決めるという意味です。
それは本来、当然のことです。
しかし、その当然の前提を、関係性の中で丁寧に築いていく必要があると感じています。
相手の課題は相手の課題。
こちらの課題はこちらの課題。
その境界線を明確にすることが大切です。
決して、
パターナリズム的に先導すべき
という意味を言っているのではありません。
ときには、そうした強い関与や判断が必要な場面もあります。
ただし、パターナリズムが原則ではないということは、押さえておきたいところです。
関連記事:福祉現場のパターナリズムの価値を再考しよう|現役社会福祉士の自論
「最善」と「完璧」は違う
ケースワーカーには、さまざまな業務があります。
物理的な制約もあり、すぐには対応できない。
相談を受けてから、休日が間に挟まることもあります。
いつでも、どんな相談にも対応できるわけではありません。
その中で私は、ベターな方法を選び続けています。
「最善の利益」「子どもの最善の利益」という言葉は、
ときに完璧を求められているように響きます。
しかし、最善と完璧(100点)は違う。
現実の支援は、
ベターを積み重ねていく仕事です。
自分に過度な理想を課しすぎると、
長続きせず、折れてしまいやすい。
だから私は、「より良い方法を考え続ける」姿勢こそが大切だと思っています。
見立てて、判断し、行動する
正論だけでは通じない。
それがケースワークの現実です。
児童相談所のケースワーカーの仕事は、
電話をしてきた人の向こう側にある状況を想像することでもあります。
断片的な情報をつなぎ合わせ、
言葉になっていない背景を汲み取る。
簡単に言えば「察する力」ですが、
これは重要な見立ての力です。
見立てをもとに判断し、行動する。
それがケースワークだと私は思っています。
人によっては、「駆け引き」や「作戦」に見えるかもしれません。
それでも、潰れずに仕事を続け、
課題を肩代わりせず、
支援の主体を相手に置き続けるためには、時に必要な判断です。
まとめ
クライエントの感情がピークに達しているとき、
すぐに話をすることが最善とは限りません。
インターバルを設ける。
タイミングを選ぶ。
主導権を取り戻す。
その積み重ねが、
最終的にクライエントに還元される。
児童相談所であれば、子どもに還元される。
私は、そう信じています。


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