「それ、うちの仕事ですか?」
福祉の現場で、こんな言葉が飛び交うことがあります。
ソーシャルワークの仕事には、「誰がやってもいい」けれど「誰もやりたがらない」領域がたくさんあります。
法律にもマニュアルにも明確に書かれていない。
けれど誰かがやらなければ、支援は進まない。
そうした“線引きのあいまいな仕事”をめぐって、
担当者同士、機関同士で火花が散る──そんな場面を、私は何度も経験してきました。
「誰がやるべきか」で生まれる摩擦

福祉の仕事は、明確に「この機関しかできない」と定められている業務もあります。
たとえば一時保護の決定、措置の実施、通報の受理など。
根拠法や規則で定められた範囲なら、答えはシンプルです。
しかし、問題はどちらがやってもよい仕事です。
たとえば会議の開催、支援調整、家庭訪問、情報提供の調整…。
「それって、どっちがやるの?」という場面が少なくありません。
こうしたとき、各機関が自分の立場からこう主張します。

これはあなたの機関がやるべき仕事でしょう

いや、うちの役割ではありません
互いに折り合わず、結果として一番困るのは、当事者です。
この“誰がやる問題”は、福祉のあらゆる分野で起きており、私自身も現場でずっと悩まされてきました。
対応のヒント①:まず「根拠」と「前例」を探す
最初の手立ては、根拠法や規則に答えを求めることです。
法律で「この業務はこの機関しかできない」と定められているなら、それが答えです。
次に見るべきは前例です。
「これまで似たケースはどう対応してきたのか?」
「過去に同様の事例を担当したとき、どの機関が動いたのか?」
前例を確認することは、単なる“前例踏襲”ではありません。
むしろ、思考のエネルギーを節約し、判断の軸を整えるための材料です。
異論があるなら、それをもとに新しい方針を検討すればいい。
過去をなぞるのではなく、過去を使う。
それだけで議論の混乱はかなり減ります。
対応のヒント②:「引き受ける」判断をする前に考える
次に、自分の機関で引き受けるかどうかを考えます。
「誰もやらないなら、もう自分がやるか」と判断することもあるでしょう。
実際、それで場が丸く収まることもあります。
しかしこの判断には副作用があります。
- 一度引き受けると「前もやってくれたでしょ」と今後も押し付けられる
- 自分の負担が増えて、燃え尽きにつながる
私はこの「自己犠牲モード」が福祉現場ではあまりにも多いと感じています。
“自分を守ること”も、立派なプロの判断です。
とはいえ、「誰がやるか」で揉めているうちに、クライエントが置き去りになる──
それもまた避けたい現実です。
このバランス感覚こそが、現場の醍醐味であり、難しさでもあります。
対応のヒント③:一部だけを引き受けるという交渉術
三つ目の手立ては、部分的に引き受けるという方法です。
たとえばこういう形です。
「会議の開催連絡はこちらでしますが、司会と資料作成はそちらでお願いします。」
すべてを抱え込む必要はありません。
“一部を担い、一部を委ねる”というのは、現場で使える実践的な交渉術です。
もちろん、ケースバイケースです。
本質的にどの機関が担うのが適切か──その見立ては必要です。
しかし、誰がやっても結果がほとんど変わらない仕事なら、
「分けて引き受ける」という選択肢も十分にありえます。
対応のヒント④:なぜ「やりたくない」と思うのかを掘り下げる
自分が「この仕事はやりたくない」と感じたとき、
その理由を掘り下げてみることも大切です。
- 自分が疲れているからか
- 他機関がやる方が効率的だからか
- それとも、単に面倒だからか
“誰がやるべきか”を考える前に、“なぜそう思うか”を自分に問う。
その思考のプロセスが、結果としてクライエントの利益につながります。

最後に:答えは「クライエントの最善の利益」に戻る
最終的に、私たちが立ち返るべき軸はひとつです。
それは、クライエントの最善の利益。
障害福祉なら、障害のある人。
児童相談所なら、子ども。
支援の主語はいつも利用者です。
自分の体を守ること、自分の気持ちを大切にすることも忘れてはいけません。
その両立のバランスを崩してしまう人が多いからこそ、私はこのテーマを書いています。
「自分を守ること」と「クライエントの利益を守ること」──どちらもソーシャルワークの一部です。
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