児童福祉司の大変なことは何か。
そう聞かれたら、私は「誰もが納得できる正解がない中で、決断し続けなければならないこと」だと答えます。
私はこれまで、児童福祉司として、虐待の初期対応、一時保護、保護者や関係機関との調整、子どもの非行や性課題、性虐待、児童福祉法第28条の審判申立てなどを経験してきました。
おそらく、児童福祉司の仕事は一通り経験してきたと思います。
その中で感じる大変さは、もちろん一つではありません。
あえて5つに絞るなら、次のようになります。
児童福祉司の大変なこと
- 誰もが納得できる決断はない
- 大きな負荷の中でメンタルを維持すること
- 求められる能力に際限がない
- 頑張るほど仕事が増えていく
- 自分のペースで仕事をしにくい
児童福祉司の大変なこと① 誰もが納得できる決断はない
私が児童福祉司の仕事で最も大変だと思うのは、誰もが納得できる決断を示せないことです。
私は福祉の仕事を選びました。
基本的には、人と安定した関係を作りたいと思っています。
相手と対立するより、話し合いながら一緒に考えたい。
仕事にも、そうしたものを求めていました。
しかし、児童福祉司は、それだけでは務まりません。
子どもの最善の利益を目指す仕事ですが、子どもの意思をそのまま決定にできるわけでもありません。
子どもが「家に帰りたい」と言っていても、家に帰すことが危険だと判断すれば、一時保護を続けなければならないことがあります。
反対に、子どもから助けを求められても、本人が望む形では対応できないこともあります。
子どもの話を聞くことと、子どもの希望をすべて実現することは同じではありません。
そこには、どうしても苦しさが残ります。
”誰かには嫌われる役割”とも言えます。それは、こちらの記事でもお話ししています。
保護者と対峙しなければならない
児童福祉司が意見を対立させる相手として多いのは、保護者や親権者です。
特に、保護者自身が虐待をしている場合には、譲れない線があります。
保護者が納得していなくても、子どもの安全を優先しなければならないことがある。
一方で、保護者を単純に「悪い親」として扱えばよいわけでもありません。
子どもの非行や問題行動への対応では、直近の出来事だけを見れば、虐待とは直接関係がないように見えることもあります。
しかし、その背景をたどると、不適切な養育や、これまでの虐待の経過が見えてくる場合があります。
子どもの行動だけを問題にしても解決しない。
かといって、保護者の意向にそのまま従うこともできない。
児童福祉司は、保護者とは異なる意見や立場を持つ他者として、関わり続けなければなりません。
仲良くなることが目的ではありません。
しかし、関係を切ればよいわけでもない。
この距離感は、簡単ではありません。
関係機関とも意見は一致しない
意見が食い違うのは、保護者だけではありません。
- 市区町村の子ども家庭支援を担当する部署
- 要保護児童対策地域協議会の関係機関
- 学校
- 医療機関
- 警察
- 司法機関など
彼らとも、判断が合わないことがあります。(もっと言うと、たいてい合わない)
組織が違えば、使命も役割も違います。
役割が違えば、見えている問題(それを問題とするか否か)も、守ろうとするものも違います。
学校は学校の立場から考えます。
≫関連記事:学校と児童相談所の見えない壁をこえて―連携の難しさと子どもの可能性―
警察には警察の役割があります。
≫関連記事:児童相談所と警察の連携はなぜ難しいのか|現場の児童福祉司が語る摩擦の正体
医療機関にも、児童相談所とは異なる判断基準があります。
≫関連記事:児童福祉司と医療ソーシャルワーカー(MSW)の連携と立場の違い|現場から見えたリアル
違うからこそ、複数の機関が関わる意味がある。
それは分かっています。
それでも、実際のケースの中で意見がぶつかれば、調整は大変です。
最終的に、誰かが納得しない方向へ進めなければならないこともあります。
児童福祉司が、みんなの意見をきれいにまとめられるわけではありません。
必要であれば、反対されても意見を示し、決断を進めなければならない役割です。
こちらの記事でも、詳しくお話ししています。
児童福祉司の大変なこと② メンタルを維持し続ける必要がある

児童福祉司は、メンタルが強い人だけが向いているの?
私は、そう単純な話ではないと思っています。
強いか弱いかではなく、そもそも仕事から受ける負荷が大きいのです。
先ほど書いたように、児童福祉司の判断には、誰かが納得しないことが多い。
保護者、子ども、学校、警察、市区町村、施設、上司。
さまざまな立場や思惑の間に入り、その中で判断します。
しかも、選べるのはベストな方法とは限りません。
現実には、ベストはない選択肢の中から、少しでもましなものを選ぶことが多い。
いわば、ベストではなくベターを選び続ける役割です。
これは苦しいです。

児童相談所が関わっているのに、なぜ改善しないの?

児童相談所なら、何とかできるはずではないか?
そう思われることもあります。
児童相談所は、「最後の砦」とも呼ばれます。それゆえ、とても大きな期待を向けられます。
まるで、児童相談所が動けば、家族の問題をすべて解決できるかのように思われることもあります。
児童相談所は、何でもできると思われがちです。
しかし、実際にはそんな力はありません。
人の気持ちを変えることは難しい。
家族の生活を、職員が代わりに生きることもできません。
制度や社会資源にも限界があります。
児童相談所が関与しても、改善しないことはあります。
その現実と、周囲からの期待の間にいることも、児童福祉司の苦しさです。
メンタルの維持は「本人の強さ」だけでは続かない
児童福祉司がメンタルへの負荷を放置すれば、心身を壊しかねません。
だから、メンタルを維持するための対策が必要になります。
例えば、
- 日々の生活習慣を整える
- 仕事を忘れる時間をつくる
- 相談する
- 一人で抱え込まない
- 考え方や行動を意識的に変える
こうしたことを、一度だけではなく、習慣として続けられること。
自分の心身を守るための取り組みまで、仕事の一部のようになってきます。
ダイエットを成功させるのが難しいように、「何かを習慣にする」ということは、簡単ではありません。
そうした中で、私がどう乗り切ってきたかを話している記事が下記です。
児童福祉司の大変なこと③ 求められる能力に際限がない
児童福祉司の仕事では、調整がいつも大変です。
そして、求められる知識やコミュニケーション能力、面接技法も、どこまでも高くなっていきます。
虐待、発達課題、精神疾患、障害、貧困、非行、法律、家族関係、教育、医療、社会保障。
一つのケースの中に、いくつもの課題が重なっています。
制度を知っているだけでは足りません。
法律を知っているだけでも足りない。
相手の話を聞くだけでも足りません。
病気の知識だけでも、気概だけでも足りません。
必要な情報を集め、整理し、仮説を立て、今後の展開を考える。
相手の反応を見ながら、どこまで伝えるのかを判断する。
関係機関の考えや動きも読みながら、支援や介入を組み立てる。
児童福祉司の仕事は、かなりの頭脳戦です。
私はこれまで、いくつかの福祉現場で働いてきました。
その中でも、児童福祉司は最も大変な仕事だと感じています。
必要な知識の広さも、判断の難しさも、仕事の奥深さも、際限がありません。
経験を重ねれば楽になる部分はあります。
一方で、経験を重ねるほど、自分が見えていなかったものにも気づきます。
分かることが増えると同時に、簡単には分からないこと、限界に感じることも増えています。
児童福祉司の大変なこと④ 頑張るほど仕事が増えていく
児童福祉司は多忙です。
もちろん、職場や担当部署、その人の働き方によって差はあります。
ただ、私の経験では、仕事は均等には割り振られません。

この人なら任せられる

この人にやってもらいたい
そう思われる職員のところに、仕事が集中します。
負荷の高いケースも、対応できそうな人のところへ回っていく。
頑張れば頑張るほど、仕事が増える。
きちんと対応すればするほど、次の難しい仕事を任される。
「頑張ったね。じゃあ次はこれをよろしく。」というサイクル。
これが児童福祉の現場であり、公務員組織のリアルでもあると感じています。
仕事ができる人に任せること自体は、組織として合理的なのかもしれません。
ただし、そうした回し方を続ければ、できる人から疲弊します。
一方で、難しいケースを一部の職員に集中させなければ、現場が回らないこともある。
この構造は、個人の頑張りだけでは解決しないでしょう。
児童福祉司の大変なこと⑤ 自分のペースで仕事をしにくい
児童福祉司は、自分のペースで仕事を進めにくい仕事です。
相手がいる仕事であり、状況に動かされる仕事だからです。
朝に予定を立てても、緊急対応が入れば、変えざるを得ません。
虐待通告が入る。
子どもが家に帰れない状況になる。
学校や警察から連絡が来る。
一時保護が必要になる。
保護者とのトラブルが起きる。
昨日までは落ち着いていたケースが、突然、動き始める。
児童相談所では、「予定は未定」が現実です。
特に、虐待の初期対応や緊急対応を担当する部署では、その傾向が強くなります。
こうした仕事は、いわゆる”他律的業務”です。
自分で順番やペースを決めるのではなく、相手や状況によって仕事の進み方が決まりやすい。
児童福祉司は、まさに他律的な仕事です。
経験を重ねても、この大変さはなくなりません。
むしろ、自分が担当する範囲が広がるほど、急な対応も増えていきやすいです。
児童福祉司は、大変なことだけの仕事ではない
ここまで、児童福祉司の大変なことばかり書き連ねてきました。
ただ、もちろん大変なことしかない仕事ではありません。
やりがいや、仕事としてのおもしろさもあります。
ただし、私はすぐにそういった魅力を感じられたわけではありません。
着任して数年間、私は職場の同僚や先輩に「児童福祉司のやりがいって何ですか?」と聞いて回っていました。
「石の上にも3年」と言いますが、私の場合、3年で児童福祉司に慣れたり、やりがいを見つけたりすることはできませんでした。
自分の経験では、5年以上働いて、ようやく少し見えてきたように思います。
自分なりの支援の組み立て方ができてくる。
同僚や上司に恵まれる。
組織内部で意見を通しやすくなる。
以前は見えなかった家族や関係機関の動きが、少しずつ見えるようになる。
そこで初めて、児童福祉司のおもしろさや、やりがいを感じられるようになりました。
もちろん、5年続ければ誰でも同じように感じるという話ではありません。
私の場合は、それくらい年月がかかったということです。
責任が重く、裁量も大きい仕事
児童福祉司は、楽な仕事ではありません。
責任は重いです。
その一方で、裁量の大きい仕事でもあります。
ケースによっては、自分で支援の方向性を考え、関係機関との調整を行い、今後の対応を組み立てていきます。
社会福祉士や精神保健福祉士が就く仕事の中でも、児童福祉司ほど裁量が大きく、人の人生に大きく影響する仕事は、多くないと思います。
病院で働くMSWやPSW(MHSW)は、医師をトップとした組織の中で仕事をします。
専門職として意見を持っていても、組織の階層や医師の判断に影響を受ける場面が多い。
一方で、児童相談所は行政機関です。
一時保護や施設入所、家庭への介入など、子どもと家族に対して強い影響を与える判断を行います。
もちろん、児童福祉司が一人で何でも決められるわけではありません。
組織としての判断があり、所内での協議や上司の決裁もあります。
それでも、対外的な判断を作っていく過程で、児童福祉司の意見は大きな意味を持ちます。
児童相談所の判断は、児童福祉司や児童心理司など、一人ひとりの専門職の見立てによって成り立っています。
中でも児童福祉司は、家庭や関係機関と直接やり取りし、ケース全体の方向性について意見を求められやすい立場です。
それは、やりがいにもなります。
同時に、怖さでもあります。
自分の判断が、子どもや家族の人生に影響する。
その重みを引き受ける覚悟が、どうしてもいります。
児童福祉司を目指す人へ
児童福祉司の大変なことは、まだたくさんあります。
あえて、私が今、思いつくものを絞るなら、この5つだったというものです。
児童福祉司について調べるときは、大変な面だけを見る必要も、やりがいだけを見る必要もないと思います。
- 決断の重さ
- 人と対峙する苦しさ
- メンタルへの負荷
- 仕事の忙しさ
- 自分のペースでは進まない現実
そして、裁量や影響力の大きさ。
全体を見たうえで、自分が児童福祉司の仕事をどう感じるのかを考えてもらえたらと思います。
児童福祉司になろうと考えている方や、児童福祉司に興味がある方にとって、一つの判断材料になれば幸いです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
児童福祉司について、さらに知りたい方へ
今回は、児童福祉司として働く中で感じてきた「大変なこと」に絞って書きました。
ただ、児童福祉司の仕事は、大変さだけでは説明できません。
実際の仕事内容や役割、一時保護、家庭復帰支援、やりがいなど、児童福祉司という仕事の全体像については、次の記事でまとめています。
▶ 児童福祉司とは?仕事内容・役割・やりがいを現場経験から解説
また、これから児童福祉司を目指したい方に向けて、必要な資格や学歴別のルート、公務員として採用されるまでの流れも整理しています。
▶ 【保存版】児童福祉司になるには|学歴別9ルート・資格要件・難易度まとめ
児童福祉司を目指すかどうかは、大変さだけでも、やりがいだけでも決められないと思います。
仕事内容と責任の重さ、そこへ至るまでの道筋も含めて、やりたい仕事なのか考える材料にしてもらえたらと思います。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。








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